
※この記事には前編があります。
https://note.com/netsujo/n/nf5c6c8f8c89f
前編の目次
- 新たな収益モデル:NFT2.0・RWA・DAOの活用
- 顧客体験の革新:ウォレットレス接続・ソウルバウンドトークン・AIパーソナライズ
- コスト効率化と分散型インフラ(DePIN)による業務自動化
〜後編〜経営者が「次の成長曲線」を描くために
京都のWeb3スタートアップ.Netsujo株式会社 代表の飯田です。2025年、Web3はもはや実験段階を抜け、資金調達/決済インフラとしてのDeFi・ステーブルコイン、さらにはAIやIoTとの技術融合という二つの潮流が、企業価値を左右する現実的な選択肢になりました。しかし「話題だから導入する」だけでは、規制・会計・オペレーションの壁に阻まれ、かえって機会損失を招きかねません。経営層には、
- 制度・ガバナンスを踏まえた意思決定
- 財務戦略との整合を取った資本施策
- 技術ポートフォリオの再設計による競争優位の創出
という三位一体のアプローチが求められます。
本稿では、「なぜ今、DeFiとステーブルコインなのか」を整理し、国内外の先進事例から成功パターンと失敗要因を抽出、法務・財務・内部統制の実務論点をチェックリスト化したうえで、スモールスタートから全社展開までのロードマップを提示します。
さらに後半では、Web3単体ではなくAIやIoTを掛け合わせた“複合戦略”に焦点を当て、ROI設計や組織体制の再編まで踏み込み解説。結果として、読者が自社の事業ドメインに即した「実行可能な次の一手」を描けることをゴールとしています。
4. DeFiとステーブルコインで切り拓く新市場
Web3時代、企業の資金調達や海外展開のあり方が大きく変わりつつあります。特に注目されているのが、分散型金融(DeFi)とステーブルコインを活用したクロスボーダー決済の実用化です。これらを上手に活用することで、従来の制約を超えて新市場へアプローチする道が開けます。
4-1. なぜ今、DeFiとステーブルコインなのか
DeFiとは銀行などの仲介業者を介さずにブロックチェーン上で融資や社債発行などを通じた資金調達を行うことができる仕組みです。一方、ステーブルコインは各種法定通貨に価値を連動させた暗号資産で、安定した価値を保ちながら即時送金を可能にします。
これらの技術を活用すれば、以下のようなメリットが得られます:
- グローバル資本へのアクセス:地域や業種に関係なく、世界中の投資家と直接つながれる
- 送金の高速化・低コスト化:国際送金にかかる日数と手数料を大幅に削減
- 新たな資本戦略の設計が可能:資金調達と顧客・投資家との関係性を同時に構築
一方で、法制度、内部統制、会計処理などの観点から、慎重な設計と実証が求められます。
4-2. 国内外の先進事例に学ぶ
下記に挙げた活用事例は単なる「Web3のニュース」ではなく、既存金融と分散型金融の融合がいよいよ実用段階に入ったことを示す象徴的な動きと考えられます。
日本企業の事例:PPIHのデジタル社債発行2025年6月、ドン・キホーテを展開するPPIHはブロックチェーン技術を活用したデジタル社債を発行。電子マネー「majica」会員向けに提供し、資金調達を行いました。
- 技術基盤:Quorum(コンソーシアム型ブロックチェーン)
- 運用設計:本人確認や情報連携を自動化
- 目的:若年層支援に資金を活用
これは、RWA(現実資産)トークン化の国内事例として注目されています。
グローバルの動向:BlackRockとVisa
- BlackRock:2025年にトークン化マネーファンド「BUIDL」を立ち上げ、わずか2カ月で10億ドル以上の預かり資産を達成。
- Visa:Visaはグローバルなカード決済ネットワークの中で、「裏側(B2Bインフラ)」の清算処理にステーブルコイン(USDC)を活用。2025年第2四半期に2億ドルを超えるステーブルコイン決済を処理したことを明らかにしました。これまでのVisaは、各国銀行との複雑な中継・クリアリング処理(例:SWIFT)を通じて国際送金や決済を成立させてきましたが、「CircleのUSDC+Solana/ETH」といったオンチェーンの決済レイヤーを銀行間決済の代替として採用しています。→ 既存金融の中核プレイヤーが「DeFi的な決済網」を正式運用したという点が極めて重要です。
- CentrifugeのTinlake:現実世界の資産をトークン化し、DeFi(分散型金融)で利用できるようにするプラットフォームです。具体的には中小企業の請求書や不動産などの資産をトークン化し、それを基にDeFiユーザーが投資できるように設計されています。Centrifugeは現実世界の資産をブロックチェーン上で利用可能にすることで、金融の効率化とアクセシビリティの向上を目指しています。
これらの事例は、ブロックチェーンとトラディショナル金融(TradFi)の融合が進んでいることを示しています。
4-3. DeFi・ステーブルコインは「スタンダード」になるのか?普及を左右する5つの鍵
- 規制の明確化:DeFiプロジェクト・ステーブルコイン発行者・投資家を取り巻く必要な規制を整備
- 流動性プールの拡大:国債・国際債券・MMF のトークン化が流動性を呼び込み、金利形成を安定させる
- 信用スコアリング/オラクルオンチェーン与信モデルとリアルタイム財務データ連携
- インフラ接続性:銀行勘定系・ERP から直接トークンをミント/バーンできる APIなど
- リスク管理標準:スマートコントラクトのコード監査やセキュリティ評価、チェーン分析によるAML/CFT体制を構築
4-4. 導入に向けた実務論点
導入に向けた実務論点:法制度と投資家保護をどうクリアするか
- 規制の全体像を把握する日本トークンを発行して資金調達する場合、金融商品取引法(第一項有価証券)に該当するかを判定。
- 証券性が認められれば発行登録や適格投資家向け私募など、証券発行と同様の手続きが必要になる。
企業が取るべき4つの対応ステップ
- 証券性リサーチ弁護士と協働し、トークンのユースケース・権利内容を整理。
- 「第一項有価証券」に照らし、◯×を判定するマトリクスを作成。
ノーアクションレター/事前相談
- 見通しが不確実な場合は金融庁へノーアクションレターを申請し、規制当局の見解を取得。
- 結果に応じて、発行登録 or 免除スキームへルートを確定。
販売スキームの設計
- 公募か私募か、販売対象を適格投資家に絞るかを決定。
- KYC/AML の実施体制を整え、違法配布リスクを低減。
ホワイトペーパー & 開示資料の整備
- トークン設計・リスク・分配ルール・資金使途を明示。
- スマートコントラクト監査結果やガバナンス体制も添付し、投資家の判断材料を充実させる。
4-5. 財務戦略とリスク設計
財務戦略とリスク設計:経営・財務部門が押さえるべき3つの勘所
トークン発行やDeFi借入は、株式発行や融資に類する行為です。そのため、財務部門と連携した計画が不可欠です。
4-6. 内部統制とオペレーション整備
ブロックチェーンベースの送金や保有には不可逆性や管理責任が伴うため、ミスや不正を未然に防ぐ体制構築が重要です。
内部統制とオペレーション整備:トランザクションの不可逆性を理解し、“守り”を固める
ステップ別導入プロセス
- リスクアセスメント業務フローを洗い出し、「誤送金・キー紛失・内部不正」の3大リスクを特定。
- ポリシー策定上記3領域の統制ポリシーを内部統制規程として明文化し、取締役会で承認。
- ツール選定と設定マルチシグ対応ウォレット(Gnosis Safe など)や MPC カストディを比較・導入。
- SIEM/チェーン分析ツールと連携し、異常検知アラートを設定。
- 運用テスト少額トランザクションでホワイトリスト→承認→記録の一連フローを検証。
- 定期レビュー四半期ごとに所有鍵者・承認閾値・ログ閲覧権限を見直し、監査法人と共有。
4-7. ステップ別導入ガイド
経営判断として新手法の導入を行う場合、以下のステップで進めるのが現実的です。
ステップ1:法的整理と社内方針の策定
- 目的規制リスクを最小化し、経営のコミットを得る
主要タスク
- 国内外のSTO/DeFi関連法をリサーチ
- 「調達総額の◯%をトークンで実行」など経営レベルで方針を確定
完了の目安
- 法務確認を経た方針決裁書を承認
ステップ2:スモールスタート(PoC)による実証
- 目的実運用のボトルネックを早期特定
主要タスク
- 既存株主/特定投資家向けに少額でトークンを発行
- ステーブルコイン送金で換金プロセスをテスト
完了の目安
- 発行〜償還フローの課題リストを作成
ステップ3:外部パートナーとの連携
- 目的専門機能を外部で補完し、責任分担を明確化
主要タスク
- STOプラットフォーム、取引所、カストディ、法務・会計アドバイザー等と相談。必要に応じて契約。
- KYC・AML・送金監視の役割分担を定義
完了の目安
- 下記2種の締結
- SLA(サービスレベルアグリーメント:サービス提供者と利用者間で、サービスの品質やレベルに関する合意を定めた契約)
- 責任分担表
ステップ4:社内体制と教育
- 目的オペレーション事故・内部不正を防止
主要タスク
- 経理・財務・コンプラ部門へウォレット操作/秘密鍵管理研
- AML/CFT(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)用チェーン分析ツールを導入し、疑わしい取引検知ルールを設定
完了の目安
- 研修ログ&運用マニュアルを完備
ステップ5:本格展開と継続的評価
- 目的ROIを定量把握し、規制変化に適応
主要タスク
- 本番運用開始、投資家への報告体制を整備
- コスト削減・送金速度をKPI化して四半期レビュー
- 法改正に合わせ統制・手順を定期更新
完了の目安
- KPIダッシュボードと年次アップデート計画が稼働中
🥢コラム:AIとブロックチェーンが居酒屋で語り合ったら?
5. 技術融合が拓く次の競争優位──Web3 × AI・XR・IoTの実践戦略
5.1 Web3の可能性は単独技術にとどまらない
- ブロックチェーンは信頼インフラとして定着しつつあり、AI・IoT と掛け合わせることでリアル/デジタル双方のデータ循環速度が数桁向上。
- 融合領域はまだ“萌芽期→成長期”への過渡段階だが、初期導入企業が市場のルールメイカーになり始めている。
- 単なる効率化ではなく、顧客体験・収益モデル・業界構造そのものを刷新するポテンシャルを持つ。
5.2 技術融合の2本柱と注目事例
- Web3 × AI価値創出ポイントコードではなく AI が意思決定
- データ解析・自律運営のリアルタイム化
代表ユースケース
- AI エージェント × トークン経済:NFT に連動したバーチャルアイドルの収益分配
- AI DAO:提案受付 → 投票 → 資金配分を AI が自動実行
- DeFi 不正検知ボット:異常トランザクションを即時フラグ → 自動凍結
先行事例
- バーチャルアイドル 「Luna」:NFT 収益を AI が自律配分
- Fetch.ai:AI エージェント間のマイクロ決済プラットフォーム
- Chainalysis KYT:AI+オンチェーン監視で AML 対応
- Web3 × IoT価値創出ポイントリアルデータの信頼証明をオンチェーン化
- デバイス参加者へ トークン報酬 を付与
代表ユースケース
- センサーネットワーク・マイニング:IoT ノード稼働=トークン獲得インセンティブ
- 機械間(M2M)決済:EV 同士の自律エネルギー売買
- 履歴トレーサビリティ:自動車整備・農産物温度データを改ざん不能で共有
先行事例
- Helium:LoRaWAN ノード稼働で報酬トークン付与
- DIMO:車両データ共有で報酬獲得+保険料ディスカウント
- IBM Food Trust:産地〜温度ログをブロックチェーン管理
5.3 技術融合の周辺領域と未来的応用
以下のような高度融合領域も視野に入れると、新たな事業機会が見えてきます。
Web3 × デジタルツイン
- 何ができるかBIM(Building Information Modeling)データをブロックチェーンで改ざん不能な形で記録
- 建物・インフラの資産証明やライフサイクル履歴をリアルタイム共有
ビジネス機会
- 施工品質やメンテ履歴の透明化 → 取引コスト・保険料を削減
- NFT化した「デジタル部材」をマーケットプレイスで再利用・転売
導入ヒント
- BIMソフトとWeb3 APIを連携し、変更ログを自動ハッシュ化
- 監査法人・保険会社をコンソーシアムに巻き込み、標準フォーマットを策定
M2M 経済(Machine-to-Machine)
- 何ができるかEV やスマート家電が自律的にエネルギー交換・決済
- スマートコントラクトで料金計算・支払いを完全自動化
- ビジネス機会EV充電スタンドのピーク分散 → 電力コスト最適化
- マイクログリッド内での余剰電力取引 → 新たな収益源
導入ヒント
- IoTハブにWeb3ウォレットを組み込み、秒単位課金を試験運用
- 標準プロトコル(ISO 15118-20など)との互換性を事前確認
- AI 生成楽曲 × NFT 販売何ができるかAIが作曲 → 曲ごとにNFTを発行し、著作権・収益分配をオンチェーン管理
- リスナーはNFT保有で二次流通収益やファン特典を獲得
ビジネス機会
- クリエイターの収益多様化&ファンエンゲージメント向上
- 音楽IPを分割所有し、投資商品として販売
導入ヒント
- AI作曲ツール活用 → IPFS/Arweaveで音源保存 → ERC-721/1155 を自動ミント
- 権利帰属ルール(演奏・作詞など)をスマートコントラクトに明記
5.4 実務導入のための論点整理_5つの軸で“抜け漏れゼロ”設計
導入にあたっては、以下の5つの論点を事前に精査することが重要です。
- 人材と組織体制の再編クロス機能チームPdM/ブロックチェーンエンジニア/AI エンジニア/IoTエンジニア/セキュリティ/法務・コンプラ/財務を常設スクワッド化
- 役割と責任RACI(Responsible/Accountable/Consulted/Informed)で意思決定権限を明文化実行する人(Responsible)
- 最終責任を持つ人(Accountable)
- 相談する人(Consulted)
- 結果を伝える人(Informed)
外部連携STO/DeFi事業者、カストディ、KYC/AMLベンダー、監査法人、大学・標準化団体とパートナー・ガバナンスを構築(窓口・SLA・エスカレーション)
技術アーキテクチャの設計
- オンチェーン/オフチェーン分担オンチェーン=権利・決済・改ざん耐性が必要な最小データ
- オフチェーン=大容量データ・個人情報・要高速処理データ(分散ストレージや自社DB)
スケーラビリティL2活用、バッチ処理、圧縮、イベント駆動アーキテクチャ
周辺要素オラクル、DID/VC、鍵管理(MPC/マルチシグ)、監視(SIEM/チェーン分析)、ERP/CRM/API連携
ROI(投資対効果)の仮説設計
- 価値ドライバの特定売上増(新課金/取引回転率)・コスト減(手数料/不正損失/オペ時間)・リスク低減(監査対応)
- KPIと効果試算 ※下記は例AI不正検知 +20% ⇒ 年間損失△500万円国際送金手数料 △60% ⇒ 年間△1,200万円
- コスト見積り開発・監査・インフラ・運用・法務含むTCOで算定(Build/Buy比較)
- ゲート審査PoC→Pilot→Rollout でGo/No-Go基準(KPI閾値・回収期間)を設定
セキュリティと倫理の事前設計
- 技術リスク脅威モデリング(STRIDE等)
- キルスイッチ/緊急停止
- 権限・鍵の分散管理
- フォレンジック可能な監査ログ
AI特有の配慮
- 誤作動時のフェイルセーフ
- 説明可能性(XAI)
- 著作権/生成物の帰属と責任主体
IoT特有の配慮
- センサ改ざん対策(セキュアエレメント・署名)
- 個人データの最小化と同意管理(DID/VC活用)
エコシステムと標準形成
- 標準準拠ERC-20/721/1155
- W3C DID/VC
- ISO 15118-20(EV)
- OCPP/OCPI(充電)
- GS1/EPCIS(サプライチェーン) 等を採用
コンソーシアム設計業界・行政・学術を巻き込み、“全体最適”を前提にガバナンスと収益配分を定義
相互運用性異なるチェーン/異なるベンダー間のコンプライアンステストと“乗り換えコスト最小”の設計
5-5. 導入ステップと実行ロードマップ
事業導入を検討する場合、以下の流れが実践的です。
- ユースケースの抽出と評価自社の課題や業務と先端技術(AI・Web3・IoTなど)の組み合わせをブレインストーミング
- 「どんな価値を生むか」を仮説化
- 例:購買予測AI × NFTロイヤルティ証 → 購入データに基づく顧客特典の自動付与
技術とパートナーを決める
- 必要な技術スタック(ブロックチェーン基盤、AIモデル、ストレージ等)選定と社内リソース確認
- 不足分は外部パートナーと連携(STOプラットフォーム運営、AIベンダー、カストディ事業者など)
PoC(概念実証)で試す
- 小さな規模で効果検証
- 成功条件(KPI)を事前に明確化
- 技術的に実現できるか、運用が回るか、データが揃うかをチェック
本格開発とパイロット展開
- 限定リリースで実データを取得
- 運用しながら改善サイクルを回す(UI/UX、処理速度、コスト最適化など)
本ローンチとスケール戦略
- ユーザーにとってのベネフィットを前面に打ち出して訴求
- 外部エコシステム(業界団体、他サービス、行政など)との連携を強化し、市場浸透を加速
おわりに:次の成長曲線を描くために
本稿で見てきたように、DeFi・ステーブルコインの実用化とAI・IoTとの技術融合は単なるトレンドではなく、経営戦略の中核に据えるべき“実務的な選択肢”です。いずれも導入のハードルは低くありませんが、法務・財務・オペレーションの三位一体で設計すれば、既存の制約を超える新たな資本戦略や顧客体験を実現できます。
経営者に求められるのは、未来の市場や組織のあり方を先取りし、社内外のリソースを再編して挑戦を仕掛ける意思決定です。重要なのは大規模投資よりも「小さく始め、早く学び、確実に広げる」こと。そして、自社の強みと市場のタイミングをかけ合わせ、技術を“点”ではなく“線”と“面”で活かすことです。
今この瞬間にも、次のルールメイカーは動き始めています。貴社がその一員となるために、まずは一つのPoCから次の成長曲線を描き始めましょう。
本記事はNetsujo株式会社のオウンドメディアに掲載されています。 noteでも同内容を公開しています。
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